妄想映画プロダクション

妄想した映画を書いていこうと思っています。

21世紀SF映画ベスト1「トゥモローワールド」について

何らかの映画が公開されるたびに、

何かしらの雑誌でその映画にちなんだランキングが発表されている気がする。

記事にしやすく、拡散性があるので常態化してきたのであろう。

 

今回のランキングもいつものように流し見するつもりではあったが、

1位の映画が「トゥモローワールド」であったことに反応してしまった。

 

21世紀における至高のSF映画ベスト20 | GQ JAPAN

1位「トゥモロー・ワールド」(2006・英米)
2位「インセプション」(2010・米)
3位「Under the Skin」(2013・英米)
4位「ウォーリー」(2008・米)
5位「ゼロ・グラビティ」(2013・米)
6位「第9地区」(2009・米)
7位「セレニティー」(2005・米)
8位「LOOPER/ルーパー」(2012・米)
9位「her/世界でひとつの彼女」(2013・米)
10位「ザ・ホスト」(2013・米)
11位「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」(2013・英)
12位「月に囚われた男」(2009・英)
13位「マイノリティ・リポート」(2002・米)
14位「プライマー」(2004・米)
15位「クローバーフィールド」(2008・米)
16位「アタック・ザ・ブロック」(2011・英)
17位「サラマンダー」(2002・米英)
18位「モンスターズ/地球外生命体」(2010・米)
19位「ドニー・ダーコ」(2001・米)

20位「サンシャイン 2057」(2007・英)

 

もちろんこのランキングは絶対なものではないので、

指摘したいことは多々ある。

あれがない、これがない、という類いの意見である。

 

しかし、個人的に重要なのは「トゥモローワールド」が1位ということだ。

実は私が2000年代以降最も観返している映画がこの「トゥモローワールド」なのだ。

 

昨年の「ゼログラビティ」は非常に話題になり興行的にも成功し、

アカデミー賞も技術賞を中心に席巻し、大成功をおさめた。

だが、その監督の前作「トゥモローワールド」は興行的に成功したとは言い難い。

一部の映画ファンの間で長回しが話題になったりはしたが、

キャストの地味さ、全体的なトーンの暗さが、災いしたのか当たらなかった。

「トゥモローワールド」という邦題自体ぱっとしない。

原題の「The Children of men(人類の子供たち)」の方が内容に則してはいるが、

これもキャッチーさに欠ける。

 

しかし、この映画とんでもない映画なのである。

 

「ゼログラビティ」冒頭の長回しは記憶に新しいが、あそこまで完璧に作り込まれた世界での長回しを見せつけられると、あの映画の長回しはどうやって撮影したのだろう?っていう疑問よりか、どのようにCGIVFXで作り込まれたのだろう?

という印象を持った方の方が多いはずだ。実際、撮影自体もメイキングを観てみると見たことない撮影方法で撮影されていた。CGIで全ての構成要素をアニメーション化し、完璧に作り込んだ上で、そこに役者の表情をはめ込んでいくような撮影方法である。

一方、「トゥモローワールド」の冒頭の長回しは、どのように撮影したのだろう?本当に長回しで撮影したのか?途中でつないでいるのか?何回もリハーサルを重ねて撮影したのか?など通常の一般的な撮影方法に近く、地に足ついた撮影をしている分、多くの見解に別れ、公開時は盛んに議論された。

その長回しが終わった瞬間にタイトルが出るのだが、ただならぬ世界であることがそのタイトルが出るまでの冒頭だけで十分すぎるほどに説明されるのだ。既に誰かに指摘されているかもしれないが、タイトルが出る直前、カメラは爆破テロによって腕がもげ、その腕を反対側の手で持っている女性を映し出す。これは黒澤明監督の「用心棒」の冒頭、三船敏郎演じる浪人三十郎が宿場町についた時、人間の腕を加えた犬が現れ、ただならぬ世界であることを暗示する演出のオマージュだと思っている。

children of men opening - YouTube

 

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(「トゥモローワールド冒頭爆破テロシーン」)

 

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(「用心棒」冒頭、宿場町にたどり着いたシーン)

 

「トゥモローワールド」では、特筆すべき長回しが3回ある。

冒頭、襲撃、ラストである。

ネタバレにもなるので詳しくは言えないが、残りの長回しもとてつもなく技巧的なのだが、本当にその場に居合わせて、たまたまずっとカメラを回しているようにしか見えない。これはとにかく一度鑑賞して確かめていただきたい。

 

多くの方は「ゼログラビティ」でアルフォンソ・キュアロン監督の存在を知ったと思うのだが、実はこの監督「ハリーポッター アズカバンの囚人」の監督でもある。

見た方は分かると思うが、この映画でもあっと驚く長回しは使われている。

個人的にはハリーポッター映画の中では最も好きな作品である。

ハリーポッター映画について語ると長くなるので、また別の機会に。

 

キュアロン監督は、長編デビュー作から3作目の「リトルプリンセス」まで顕著に緑色を基調としており、早くからビジュアルにこだわりのある芸術性の高い監督として注目されている。そのタッチは北野ブルーのようにキュアロングリーンとも言われている。もちろんアルフォンソ・キュアロンだけでなく撮影監督エマニュエル・ルベツキの貢献度も多い。デビュー2作目にしてディケンズ原作「大いなる遺産」では、デニーロ、イーサン・ホークグウィネス・パルトロウとも早くから仕事をしている。その3作ともすべて完成度が高いのだが、何と言っても世界的な評価を高めたのは2001年の「天国の口、終わりの楽園」であろう。ほろ苦い青春映画の大傑作で、メキシコ国内でも興行的にも大成功をおさめる。ヴェネチア映画祭でも脚本賞、新人俳優賞を受賞しており、その評価は世界的に知られることとなる。その成功があり、ハリーポッターシリーズへの起用に繋がる。その後、5年の歳月を経て「トゥモローワールド」を発表する。興行的には振るわなかったが、批評的な評価も更に高まり、その7年後、「ゼログラビティ」を発表する。「ゼログラビティ」は完成度が高く、世界的に文句なしに歴史的大傑作の称号を獲たので、昔から好きだった身としては、はるか遠くの存在になってしまったように感じる。しかし、「ゼログラビティ」でラスト、画面いっぱいのキュアロングリーンを観た瞬間やっぱり、俺が好きなキュアロンだった!と感じさせるのがずるい。

 

フィルモグラフィもあまり多くないので、

ぜひ他の過去作品もオススメしたい。

 

アルフォンソ・キュアロン監督作品■

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最も危険な愛し方 (1991) 監督・脚本・製作

リトル・プリンセス (1995) 監督

大いなる遺産 (1998) 監督

天国の口、終りの楽園。 (2001) 監督・脚本・製作

ハリー・ポッターとアズカバンの囚人 (2004) 監督

トゥモロー・ワールド  (2006) 監督・脚本・編集

パリ、ジュテーム (2006) オムニバス映画、監督・脚本

ゼロ・グラビティ Gravity (2013) 監督・脚本・製作・編集

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※余談

21世紀における至高のSF映画ベスト20 | GQ JAPAN

冒頭のベスト20で不満に思うのは、

8位「LOOPER/ルーパー」(2012・米)
11位「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」(2013・英)
16位「アタック・ザ・ブロック」(2011・英)

がランクインするのはどうかなと思う。

ルーパー」を入れるなら同じ大友オマージュ映画の「クロニクル」を入れるべきだと思うし、「ワールドエンド」はコメディ映画としては笑ったがSF映画として傑作とは思わない。それを入れるなら「ギャラクシークエスト」を入れる。「エターナルサンシャイン」「宇宙戦争」「オブリビオン」もいれたいところ…と考えながら、「ミスト」「グエムル」はSFじゃないのかな…とSF映画の定義を考えるのが面倒になってきたのでこの辺で。